2009年11月17日

006・私はまだ世界の“こちら側”にいる

Bookfile regen・002
『ドント・ストップ・ザ・ダンス』
□柴田よしき
□実業之日本社/2009.7月 本文450p/1,785円+税 ISBN978-4-408-53552-4 
書籍紹介page>書籍>2009年7月17日発売分

 柴田よしきに惹かれたのは『聖母(マドンナ)の深き渕』を読んだからで、もう10年以上も前になるか。当時この筆致は衝撃的で、一種のミステリとはいえ、こんな女刑事像は初めて見たように思ったからだ。一人の女として体当たり、というよりも、攻める側ではなく、踏みつけられる側の性を抱えた女として、主人公・RIKOが犯人を追い詰めていく過程が語られる。
 その作品に登場する刑事(現在は私立探偵)・麻生龍太郎に惚れてしまってだいぶんになる。最初はその運命の相手である山内練に惹かれ、またこの練に惹かれる読者は多いと聞く。内容や設定からJUNE的・耽美系・BL好きにも読まれ、読者層がちょっと違うような気もするのだが。…一連の「山内練もの」「村上理子もの」は、社会の暗部と警察という社会、人の内面を描く重いが深い作品群だが、今回、手に取ったコレは一転して、明るい『花咲慎一郎シリーズ』である。

            ・・・
 長い前振り(笑)。その理由は、今回、この新刊を探すにあたってショックだったのは、“発行部数が少ない”ということである。最初に読んだ『聖母の深き淵』の時は、重いテーマだし手法が独特だし、またあまりに文章の力がある人なので、なかなかベストセラーというわけにはいかないだろう、と思っていただ。だけど今は。人気作家だと思うし、どこの書店に行っても「著者別」の棚に名がある。
 ところが近所の書店には入荷しませんだし、わずか発行1か月で近所中の書店から消えた。…要するにそういう扱い!? これほどの人でもか、という、作品の内容とは別のショックを受けたというわけだ。
 結局、“Amazon.買い”に落ち着き、読むことができ…。

 前述したように、この作品は、女刑事・村上理子−元警部補・麻生龍太郎−広域指定ヤクザ春日組若頭・山内練と、それにまつわる人たちを取り巻く人間関係の作品群に含まれる。主人公・花咲慎一郎は、新宿の繁華街ど真ん中にある無認可保育園の園長で、その園長を続け生存するための借金の返済に私立探偵を続けている。麻薬捜査で失敗した元同僚を射殺して刑事をやめた元警官。そして山内の部下で彼に心酔する警察の同期・斉藤や、秘書でTGだった長谷川環、そうして練自身も自分が統括する闇の世界をチラつかせて登場するのである。
 此処は、本編世界で熾烈な戦いを繰り広げる正義と闇の戦場ではない。その真っ只中にあって、小さな城壁に囲われた脆い島。その中にはまた正義も悪もあり、貧困と差別、社会の問題が吹き溜まりのように園児たちの父兄や自身を襲い、園長・花ちゃんに降りかかる。

 山内練の物語を読みたくて手を出したシリーズだったが、彼は此処では影に徹し、残酷なヤクザであることを示しながらも直接自身にかかわりのあるところまで踏み込まない。花ちゃんを“オモチャ”にし、体よく振り回すことで鬱憤を晴らしつつ、恩ある人への良心をまっとうしようとする。
 自身が闇に落ちながら泥沼の中、先が見えないまま続いていく麻生と山内の糸。それとは別に、この作品全体が“救い”なのだと私は読む。なぜなら、同じ境遇に落ちながら、花ちゃんはまだ“こちら側の住人”なのだ。闇に寄り添われながらも、光ある場所に居続けようとし、その矜持を自身も持ちながら、回りも何とか保たせようとしてくれる。それが闇の世界に半身を置いている者たちすらも。
 園児たち。それを救いに、貧乏性で実は熱血の園長さんは行く。そういう話。

 この話は園児の父が突然、事故に遭って意識不明になり、園児が不遇の中取り残される処から始まる。犯人を見つけ、なんとかしなければ、借金で花ちゃんもオダブツ。園もダメになり、また誰かが死ぬだろう。
 謎は謎を深め、この分厚い本が後半になると一気に読めてしまう。
 解決の方法は、ミステリとして論争すれば論議になるかもしれないが。それでも、花ちゃんは、花ちゃんたちは、“これでいい”のだ。
 Don't stop the Dance. 花ちゃんだけでなく。歌舞伎町に生きる、彼らが、強く、優しく逞しく。…そして今回はわずかだが、このシリーズに見え隠れしているのは外国人労働者に対する子らの問題点。エンターテインメントでありながら小説として上質で、ぼちぼちと発表されるこのシリーズを、ずっと楽しみにしていたい。 [雨]





posted by alto2009 at 11:30| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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